マーケティング戦略、販売戦略を立てるときに欠かせないマーケティングフレームワークの一つがSTP分析です。本記事ではマーケティング初心者向け、STP分析の基本から分析方法、注意点、STP分析での成功事例をご紹介します。
STP分析とは?
STP分析は、欧米ではメジャーなマーケティングフレームワークです。マーケティング論の権威であるアメリカの経営学者フィリップ・コトラーが提唱した分析手法で、日本でも多くの企業が取り入れています。下記にあるとおり、3つの単語の頭文字からSTP分析と名付けられました。
Segmentation(セグメンテーション) | 市場を同じようなニーズを持つグループに細かく分類する |
Targeting(ターゲティング) | 分類したグループの中からターゲットにする顧客を決める |
Positioning(ポジショニング) | 競合他社との差別化で、市場での自社の立ち位置を明確にする |
STP分析の目的
STP分析の目的は、他社との差別化を図りながらターゲットを確立し、独自のシェアを獲得することです。自社の強みや独自性を明確にし差別化することで、他社と競争する環境で有利なポジションを探し出すことができます。STP分析は分析する状況によって2つの意味を持ちます。いずれにせよ、売上を増やすための分析であることは共通します。
1 | すでに商品があり、売上を増やすためのSTP分析 | 自社商品が消費者にとって競合商品よりも魅力的に写るセグメント・ポジションはどこかを探す |
2 | 商品企画としてのSTP分析 | 市場を俯瞰し、どこに売上を増やすチャンスがあるかを探す |
なぜSTP分析が必要なのか
STP分析によって、差別化された有利なポジションを探すことで、他社との競争を避け効率的に商品を売り出すことができます。他社と同じターゲットを狙っていては、競争が激化し資金や労力を無駄に消費することにもつながりかねません。
市場や顧客から必要とされるものを、競合がいない環境で売り出すことができれば、自社の商品が選ばれる確率をあげることが可能です。他社と競争するリスクを減らしつつ、売上を伸ばすことができます。このように、STP分析は効果的に市場の開拓を行うための重要なマーケティング手法です。
STP分析の考え方と方法
ここからは、STP分析の考え方や方法について順番に解説します。
セグメンテーション(Segmentation)
まずはSegmentation(セグメンテーション)です。セグメンテーションとは消費者を分類して分けることを指します。
消費者を分ける目的は、売上を増やす伸び代のある消費者群(セグメント)を見つけ、マーケティングリソースを集中投下する消費者群を選ぶ(ターゲティングする)ためです。そのため、セグメンテーションが曖昧のままでは、その後の戦略がブレて定まらないので丁寧に行う必要があります。消費者の分類方法には大きく、
- ①10代、20代、30代のように消費者をある属性で分類する方法
- ②安いものがいい、性能がいいものがいい、のように消費者のニーズで分類する方法
の2種類の方法があります。ちなみに、①の場合でも最終的には分類した属性ごとのニーズに合わせて商品をプロモーションすることを目的としているので、消費者のニーズを把握できていれば初めから②の消費者ニーズで区分して問題ないといえます。代表的な消費者の分類方法を4種類紹介します。
人口動態変数(デモグラフィック変数)
人口動態変数では、市場や顧客を細分化し、どのような属性の人がどんな商品・サービスを利用しているのかを分析します。主な項目は以下のようなものです。
- 年齢
- 性別
- 職業
- 収入
- 家族構成
- 最終学歴
地理的変数(ジオグラフィック変数)
地理的変数は、顧客が住んでいる地域によって異なるニーズを分析します。例えば、日本国内でも温暖な地域と寒冷地では、住宅に求められる気密・断熱性能が異なります。海外をターゲットにする場合でも、アジア・アフリカ・ヨーロッパなど地域ごとに提供するべき商品・サービスは変わっていくでしょう。地理的変数には以下のような項目があります。
- 世界の地域
- 国
- 気候
- 文化
- 宗教
- 発展度
- 国内の地域
- 県
- 市町村
- 人口密度
心理的変数(サイコグラフィック変数)
人間心理に焦点を当てて分析するための項目が心理的変数です。例えば、時短調理がしたいワーキングマザーと、丁寧な暮らしを好む専業主婦とでは、食材の買い方が大きく異なるでしょう。ターゲットの特徴や心理をとらえたマーケティングを展開することで、より効果的なアプローチが可能になります。心理的変数には、主に以下の項目があります。
- ライフスタイル
- 価値観
- 購買動機
- 社会階層
行動変数(ビヘイビア変数)
ターゲットの行動記録に焦点を当て、いつ・どこで・どんなタイミングで商品が売れたのかを分析することで、効果的なマーケティング施策を打てるようになります。例えば、通販の高級おせちを買う人は早期割引を狙って早いうちから予約行動をとりますが、リーズナブルなおせちを買う人は年末ぎりぎりにスーパーで購入しています。
このような情報を入手することで、それぞれの商品に最適なタイミングで販促が行えるようになります。行動変数の主な項目は以下になります。
- 利用経験
- 利用水準
- 購入回数
- 購入プロセス
- 購入時のベネフィット
- ロイヤリティの状態
ターゲティング(Targeting)
ターゲティングはマーケティングリソースを集中投下する消費者群(セグメント)を選ぶことです。セグメントした消費者群から適切なターゲットを見つけることで、効率的なマーケティング施策を打ち出すことができます。
ターゲット選びの判断軸
ターゲティングする際は以下2つの判断軸を持つことになります。
- ①自社の商品や強みと相性の良い消費者セグメントを選ぶ
- ②世帯浸透率、購入頻度、購入商品数、年間消費量、他社商品からのスイッチングなど、売上に関わる要素が改善されるセグメントを選ぶ
①は他社商品と比較された際、自社商品が選ばれる勝率を高めるということです。これは次章で解説する自社のポジショニングと相性のいい消費者セグメントを選ぶということです。
②は売上を構成するそれぞれの要素が改善されるセグメントを選ぶことを意味します。マーケティングの成功は、最終的には上記のような売上要素の一つ一つが改善されることで売上が増える構造をしています。前章で解説したセグメントごとに世帯浸透率、購入頻度などを調査し、数値を大きく改善できるセグメントがあればターゲットになり得ます。
ターゲティングとは?マーケティング戦略とフレームワークを紹介3C分析でターゲットを絞り込む
3C分析とは、Customer(市場・顧客)・Competitor(競合)・Company(自社)の3つの視点で分析する手法です。並行して3C分析を行うことで、より確実にターゲティングすることができます。選択肢が多くてセグメントの中からうまくターゲットが絞れない時に活用すると良いでしょう。
Customer(顧客) | 細分化した顧客グループの市場規模・成長性・収益性 |
Competitor(競合) | 競合の規模や数、どのような優位性があるか |
Company(自社) | 自社のこれまでの戦略やブランドと整合性が取れているか |
ターゲットを選ぶ際は、消費者の目線になって、自社だけでなく競合商品のことを意識しなければなりません。それは、消費者が常に複数の商品、ブランドを比較しながら商品を購入しているためです。セグメントした消費者郡が3C分析にマッチしていなければ、正しいターゲットになりません。他のセグメントを狙っていく必要があります。
3C分析とは?3C分析の基本から分析手法・テンプレートを紹介 マーケティングフレームワークの基本中の基本である3C分析について事例とともにわかりやすく解説します。3C分析を理解すればあらゆるマーケティング戦略、営業戦略を考える際に役立ちます。ゼロから学んでみませんか?5Rの視点で絞ったターゲットを評価する
ターゲットを絞り込むことができたら、それが正しいものか評価していく必要があります。ターゲットは5Rの視点で評価していきましょう。5Rの視点で分析した結果、あまり売上が見込めないターゲットだと気付いたら、すぐに他のターゲットに狙いを変えましょう。
Realistic Scale | 利益が出るだけの市場か |
Rate of Growth(成長性) | 今後も引き続き売上が伸びるか |
Rank & Ripple Effect(優先順位と波及効果) | 優先順位の確認と、近接した市場にも売上が望めるかどうか |
Reach(到達度) | マーケティング施策に反応があるか |
Rival(競合) | 競合の数、競合より優位性があるか |
ペルソナの設定をしてターゲットを具体化する
ターゲットが決まったらペルソナ設定をしてみましょう。ペルソナ設定とは、ターゲットの人物像を具体的にすることです。リアルな人物像を設定することで、どのような顧客を重要とするかといった方向性が明確になってきます。例えば、以下のようなターゲットに絞った場合は、このようなペルソナ設定ができます。
ターゲット | 30〜40代 女性 主婦 |
ペルソナ | 子供2人の4人家族 家事をしながらパートもしている 料理が好き 食べ盛りの子供 夫と子供のお弁当を毎日作っている |
「パートで時間がない時に時短で料理できる商品」「安くてボリューミーな商品」「お弁当用に小分けにできて冷凍保存もできる商品」といったようにペルソナを設定するとニーズも具体的に見えてきます。また、人物像にあったマーケティング戦略の組み立てもしやすくなります。
ポジショニング(Positioning)
ポジショニングとは、自社がどの消費者ニーズに重きをおくか設定することです。ある商品カテゴリにおいて、消費者が商品を選ぶ際の判断軸にしている価値観・ニーズがあります。掃除機で例えるなら、吸引力が強い、安い、静か、軽い、など掃除機を選ぶ際に消費者が重要視する特徴があります。
ポジショニングにおいて考えなければならないのは、ポジションは競合他社との相対で決まるということです。多くの会社が掃除機メーカーが2万円で掃除機を販売しているのに対し、自社は機能面は若干劣るが1.5万円で販売する価格優位なポジションをとっていても、1万円で販売する海外ブランドが現れると自社の価格競争優位性は有効でなくなります。
しかし、海外ブランドと比較すると自社の掃除機は軽くて吸引力も強く静かであれば、1万円台の掃除機の中では機能面に優れると捉えることもできます。このように、あらゆる要素は相対的に決まり、さまざまな競合商品があるなかで自社がどのポジションで勝負するかを考えることになります。
ターゲット視点で魅力的であることが絶対条件
ポジションを見つける中で大事なことは、ターゲットにとって魅力的であることです。いくら独自性があり競合がいなくても、顧客のニーズがなければ意味がありません。
ポジションを決める段階でもう一度、ターゲットの目線になってニーズにあったアプローチができているか確認しましょう。ターゲットが求めていることを自社だけが提供できているというポジションになっていることが重要です。
ターゲットニーズや市場の変化に合わせて柔軟になること
ポジショニングは、市場の変化とともに変わってくる可能性が高いです。顧客のニーズが変わったり、競合が新しい商品を出したりと同じポジションに居続けられることが少ないです。新しいポジションを確立したり、同じポジションを守るために改善する必要が出てきます。このような環境変化に柔軟に対応するためにも、分析を定期的に行うと良いでしょう。
STP分析を行う際の注意点
実際にSTP分析を行う際には、どのような手順で進めていくのでしょうか。4つの注意点を解説します。
1. 競合のビジネスモデルを把握する
まずは競合のビジネスモデルを分析します。市場の中でどのセグメントが有望なのかを見極め、自社商品が競合とどのように差別化をはかるべきかを考えるためにも、競合の分析は重要なポイントです。
2. 顧客視点に立って考える
どんなに素晴らしい商品でも、顧客のニーズを捉えていなければ売れません。例えば、家庭用なら大型多機能掃除機よりも、コードレスの軽い掃除機を求める層の方が多いでしょう。ITやデジタルテクノロジーの発達で、顧客の購買履歴やWeb広告への反応といった行動変数の把握は容易になっています。データを活用し、顧客のニーズを読み取りましょう。
3. 各項目をバラバラに考えない
セグメントやターゲット、ポジショニングは各項目が独立しているのではなく、それぞれを何度も行ったり来たりしながら分析の精度を高めていきます。
- 正しいセグメンテーションができているか
- このターゲットと自社の強みが発揮されるポジションは対応しているか
- このポジションが生きるターゲットはここでいいのか?
など、何度も分析結果を見直しながら自分の考えを深めていきましょう。裏返して考えると、STP分析がセグメント・ターゲティング・ポジショニングの順番で行わなくても良いということです。ポジションを決めた後にターゲティングすることもあれば、ターゲティング後にポジションが明確になることもあります。順番にとらわれず、何度も往復しながら確実な分析をしましょう。
4. 分析結果は必ず見直す
STP分析は「これが正解」という確定的なものではありません。あくまで「分析」であり、現実のデータはマーケティング施策の実行後に手に入るものだからです。「思ったよりも施策の効果が上がらない」「顧客の反応が悪い」といった状況になれば、すぐにリサーチや取得したデータを使ってSTP分析の結果を見直すことが必要です。
最初の分析結果にこだわらず、あらためてSTP分析をやり直しターゲットのペルソナや狙うべき市場を設定し直すなどの修正を行いましょう。
STP分析で成功した企業の事例
STP分析で成功した企業は、どのような視点で分析を行ったのでしょうか。有名な事例を2つ紹介します。
事例1. ユニクロ
ユニクロは他のアパレルメーカーとは異なる独自のポジショニングを取る戦略で成功しています。通常、アパレルでは年齢や性別だけにとどまらず、既婚・未婚、子供の有無、オフィス向け・カジュアル向けなど「ターゲット層を絞り込んで特定のペルソナ向けに販売する」戦略が一般的でした。
しかし、ユニクロは商品企画から製造販売まで一貫して行うSPAビジネスモデル(※)を強みに、ペルソナを作らず「消費者のニーズに合わせて商品の生産をコントロールする」という戦略を取りました。ターゲット層を絞らず、商品の方を絞り込んだのです。
フリースやヒートテックなど、爆発的なブームを作り出したのはSPAならではの対応力です。その結果、カジュアル・ベーシック志向に特化した品ぞろえで市場のポジション獲得に成功しました。
※SPA:specialty store retailer of private label apparelの略。企画、製造、小売までを一貫して行うアパレル業界のビジネスモデル。
事例2. スターバックス
家でも職場でもない第3の居場所(サードプレイス)のニーズをいち早く捉えたのがスターバックスです。数多くある喫茶店やコーヒーチェーンの中で独自のポジショニングを取るために、スターバックスは徹底的なSTP分析を行いました。
セグメントで市場を細分化、ターゲット分析で「都市部に勤務する金銭的な余裕のあるオフィスワーカー」というペルソナを確立し、「都会的なおしゃれな雰囲気の店で高くて美味しいコーヒーを提供する」という独自のポジションを確保したのです。ユニクロの例とは逆に、徹底的にターゲット層を絞り込んで成功したのがスターバックスです。
STP分析と事例のまとめ
STP分析は、事業やサービスの成長に欠かせないマーケティングフレームワークです。STP分析をしっかり行うことで、顧客が自社を選ぶ理由が明確になり、市場の中で一定のシェアを獲得することができるでしょう。市場のポジションが不明瞭な方、これから新規事業を立ち上げる方はぜひ、この機会にSTP分析を行ってみてください。
繰り返しになりますが、STP分析はあくまでも目的を達成するための手段です。集客や売上増につなげるためにも、マーケティングミックスを意識し、分析結果を検証していきましょう。