マーケティングを考える際の基本となるのがマスマーケティングです。万人受けする商品やサービスについてのマーケティングで、大量生産・大量消費が当たり前だった20世紀には主流の考え方でした。
しかし、現代は価値観が多様化し、消費者や顧客の嗜好が細分化されています。このような状況においても、マスマーケティングは有効なのでしょうか? そこで、今一度マスマーケティングについて振り返りながら、今どきのマーケティング施策について解説します。
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目次
マスマーケティングとは
マスマーケティングとは、大多数のユーザーを対象としたマーケティング施策です。マスマーケティングの「マス(mass)」とは、「大衆」「集団」「集まり」などを意味します。マスマーケティングも、万人向けの商品やサービスを開発・生産・販売するマーケティングという意味です。
20世紀はマスマーケティングが全盛だった
20世紀はマスマーケティングが全盛でした。マスマーケティングの誕生には、この時代に起きた市場の変化が大きく関わっています。
米国では19世紀の後半あたりから、鉄道や電信などが整備されました。それまでは地域ごとに市場が分かれていましたが、各地域の市場が結合した結果、全国単一市場というものが生まれました。市場の変化に対して、大量生産・大量広告・大量販売を進めた企業が出始め、突如発生した巨大な市場を独占し、大きな成果を出したのもこの時代です。
20世紀は大量生産・大量消費の時代といわれています。大衆向けの商品やサービスを開発・販売して成功を収めた企業が多く存在し、それがマスマーケティングによる成功と考えられてきました。
マスマーケティングの成功事例
マスマーケティングの成功事例として有名なのが、コカ・コーラ社です。1923年にロバート・ウッドラフ氏がコカ・コーラ社の社長に就任し、同年にキャンペーンを打ち出しました。
そのキャンペーンで用いられたキャッチコピーは「いつでも・どこでも・だれにでも」というものです。「だれにでも」という文言から、万人を対象とするマスマーケティングの手法であることがわかります。
コカ・コーラ社は同社の代表的商品であるコカ・コーラ以外にもさまざまな飲料を発売しています。しかし、マスマーケティングで用いた商品はコカ・コーラのみでした。限定した分、効率的なアピールが可能となったのです。
コカ・コーラをアピールするために、CMや新聞・雑誌の広告、スポーツイベントのスポンサーなどにより、かなりのコストをかけたプロモーションが行なわれました。街の至るところに広告看板も設置し、自然と目に入る環境を作り出したのです。
ブランドイメージを確立させるための工夫も用いられていました。そのひとつが「赤い自動販売機」です。コカ・コーラといえば赤というイメージがありますが、そのイメージ付けをする上で自動販売機がかなり役立ちました。街の至るところに自動販売機を設置したことで、「いつでも」「どこでも」を達成したのです。
コカ・コーラのマーケティングは見事成功し、トップシェアを獲得しました。今でもコカ・コーラを知らない人はいないといっても過言ではありません。消費者すべてを対象としたマスマーケティングの象徴的な成功事例です。
ほかにも事例としては、一般消費財メーカーのP&Gや自動車メーカーのフォードなど、マスマーケティングを活用した成功事例がいくつか挙げられます。それらはいずれも、マスマーケティングが盛んであった20世紀に行なわれたものです。
マスマーケティングのメリット・デメリット
このようにマスマーケティングは、20世紀において全盛でした。大量生産・大量消費の時代に合っていたこともその理由ですが、そうしたメリットの一方でデメリットもありました。ここでは、マスマーケティングのメリット・デメリットについて見ていきましょう。
マスマーケティングのメリット
マスマーケティングの主なメリットは以下のとおりです。
- 生産から販売まですべてのコストを抑えこめること
- スケールメリットがあり、大きな利益とシェアの確保が期待できること
マスマーケティングでは消費者のターゲットの絞り込みをせず、市場にいるすべてのユーザーを対象とします。そのため大量生産を前提として、生産コストを抑えられます。そして販売チャネルも統一すれば、広告費用や販売コストも抑えられます。
また、マスマーケティングにはスケールメリットがあります。巨大市場で成功できれば、大きな利益の実現が可能です。シェアを確保できれば、その後のマーケティング活動においても成果を実現しやすくなります。
マスマーケティングのデメリット
マスマーケティングはコスト面やシェア獲得などで大きなメリットがある一方で、無視できないデメリットもあります。マスマーケティングのデメリットは以下のとおりです。
- 扱える商品が限定されること
- 消費者・顧客の嗜好が細分化された中では活用できないこと
- 現代ではマスマーケティングに効果的なマスメディアの活用が難しいこと
マスマーケティングでは、万人に受け入れられるような商品やサービスでないと、その効力はありません。消費者・顧客の嗜好が細分化された現在では、活用できないと言われているのもそのためです。さらに現代は、テレビや新聞などを見ない人が増えており、マスマーケティングの広告出稿でマスメディアを活用することも難しくなっているのもデメリットです。
マスマーケティングと随走したマスコミの不振も
大衆を対象としたマスマーケティングでは、マスメディアを活用した広告宣伝が効果的です。マスマーケティングでは、主に以下のマスコミ4媒体が活用されてきました。
- テレビ
- ラジオ
- 新聞
- 雑誌
テレビで放映するCMは、訴求力が高く伝えられる情報量が多いのが特徴です。テレビCMをきっかけに認知度が急上昇し、市場でブレイクした商品例も多く見られます。20世紀はテレビが発明され、普及した時代であるため、より強い影響力を持っていたという面もあります。
テレビが普及する前はラジオが人気でした。ラジオCMをきっかけに商品・サービスが知られることも多くありました。テレビの登場後も、印象的なキャッチコピーやフレーズを活用すれば印象付けが可能です。
新聞は非常に多くの家庭で購読される媒体でした。そのため新聞に広告を掲載することで、多くの消費者・顧客へ宣伝できましたが、現在では部数の減少とネット記事へのデジタル化で、読者層も変化してきています。
雑誌に掲載する広告も効果はあります。特に専門誌は特定の業界や市場にセグメントされた読者を獲得しているので、媒体を選ぶことによって確実な効果を得られました。しかし、現在では新聞同様に購読層は減ってきており、デジタル化によってそのビジネスモデルも変化してきています。
かつて消費者・顧客は、これらマスコミ4媒体から情報収集を行っていました。しかし、インターネットが普及した現代では、マスメディアとの接触機会が減り、インターネットなどを利用して自ら情報を取得することが主流となっています。
このため、広告出稿量もマスコミ4媒体では減少し続け、インターネット広告費が増大しています。マスコミ4媒体の中ではテレビ広告費がトップでしたが、2019年にはインターネット広告費がテレビ広告費を上回りました。
出典:電通「日本の広告費」
マスマーケティングは今も有効?
このようにマスマーケティングは古いマーケティング方法と受け取られがちですが、今でも有効な手段でしょうか? 現代は、消費者・顧客の嗜好が多様化・細分化された多品種少量生産の時代です。このような時代においては大量生産・大量販売のマスマーケティングは向きません。
また前述したように、マスメディアではなくインターネットで情報収集を行う人が増えています。そのため、マスコミ4媒体における広告費も年々減少しています。
マスメディアが不振な状態であるため、マスマーケティングに有効な宣伝手段とは言えなくなってきました。そのように考えてみると、かつては大きな成果を実現した事例もあるマスマーケティングも、現代で同じように成果を上げることは難しくなってきていると言えるでしょう。
「マス」ではないマーケティングの施策とは?
それでは、マス(万人向け)のマーケティングではない施策にはどのようなものがあるのでしょうか? 消費者・顧客の嗜好が多様化・細分化された市場では、ターゲットを絞り込んだ効率的なマーケティングが求められます。インターネットの普及によるデジタル化やビッグデータの活用により、マーケティングの方法そのものも多様になってきています。
そこで、どのようなマーケティングの施策があるのかをご紹介します。
ターゲットマーケティング(セグメントマーケティング)
ターゲットマーケティングは、マーケットのセグメンテーション(市場細分化)をすることにより、ターゲットとなる市場を選んで効率的にマーケティングを進める方法です。別名「セグメントマーケティング」とも呼ばれます。
マスマーケティングのように万人のための市場を選ぶのではなく、ターゲットとなる市場を絞り込んでマーケティングを行うため、より確実性の高いマーケティングが可能となります。ターゲット層のニーズを満たせれば、大きな成果が得られるマーケティング方法です。ターゲットマーケティングの成功例としては、ファーストリテーリングが挙げられます。
カジュアルブランド「ユニクロ」を展開する同社は、セグメンテーションを行い「カジュアルでベーシック」という方針を固めました。そして誰でも使えるベーシックな商品としてフリースやヒートテックを開発し、色やサイズを幅広く展開した結果、爆発的な人気となり大きな成功を収めました。
セグメンテーションとは?マーケティングでの活用方法、セグメント分類のコツ、ポイントを紹介
ニッチマーケティング
ニッチマーケティングとは、特定の小さな市場をターゲットとしたマーケティング方法です。市場全体ではなく一部に絞り込んでマーケティングを進めます。
ニッチマーケティングの特徴として、大企業ではなく中小企業やベンチャー企業がシェアを取る戦略が多いことが挙げられます。大手企業や競合企業が参入していない市場、ある意味ブルーオーシャンな市場を選ぶことが大きな理由です。
ただし、最初はニッチな市場であったものの、市場が成長するにつれて他社が参入する可能性もあります。そのため、自社の強みを伸ばし、先行者利益を上げておくことが大切です。
ニッチマーケティングの事例として、スタジオアリスが挙げられます。写真スタジオ事業のスタジオアリスは、子どもの記念写真などを撮影する写真館市場をターゲットとし、子供専門の写真館チェーンを展開しています。顧客を効率的に呼び入れる工夫や客単価をアップさせる仕組み、そしてリピート率を上げる取り組みなどを行い、ニッチな市場で大きな成果を実現しました。
スモールマスマーケティング
スモールマスマーケティングとは、大衆向けのマス市場が縮小した後で、残っている市場にフォーカスしたマーケティング方法です。つまり、マスではないけれども、「小さなマス」をマーケティングしていくといった意味合いがあります。
スモールマスマーケティングでは、ビッグデータの活用が鍵を握ります。ビッグデータを分析して売れる商品や人気の高い商品を判断し、消費者・顧客の声を読み取りながら、そのスモールマス市場に注力していくことが重要です。そのためスモールマスマーケティングは、ビッグデータを利活用できる大手企業によって行われることが多いようです。
インターネットマーケティング(Webマーケティング)
インターネットマーケティングは、その名のとおりインターネットを活用したマーケティング方法です。「Webマーケティング」と呼ばれることもあります。ネット上で行うマーケティングであれば、インターネットマーケティングに当てはまります。一口にインターネットといっても、マーケティングで活用されるプラットフォームは以下のように様々です。
- Webサイト
- SNS
- Eメール
- 口コミサイト
- キュレーションサイト
- 動画共有プラットフォーム
- ネット広告
インターネットの利用者が多い現代において、インターネットマーケティングは非常に効果的です。とはいえインターネットを使わない世代には届きません。そのためインターネットマーケティングは、PC世代以降を対象とするマーケティング方法と言えます。
デジタルマーケティング
デジタルマーケティングとは、デジタルテクノロジーを駆使したマーケティング方法です。インターネットだけでなく、デジタルサイネージやIoTといったオフラインの領域も含まれます。
デジタルマーケティングでは情報発信から拡散・口コミ、さらにはユーザー同士の交流といったことまでが対象となります。Webマーケティングと比べると、対象とする範囲が非常に広いのが特徴です。
そして、デジタルマーケティングは特定のチャネルだけでなく、複数のチャネルを連携して戦略を立てることもあります。ビッグデータやMA(マーケティングオートメーション:マーケティングを自動化・効率化するプラットフォーム)なども活用し、市場やターゲットに合わせて施策を進めていきます。
PC世代だけでなく、スマートフォン世代も強く意識したマーケティング方法です。
BtoBデジタルマーケティングとは?特徴やメリット、成功事例を解説
インフルエンサーマーケティング(バズマーケティング)
インフルエンサーマーケティングとは、インフルエンサーの協力を得るマーケティング方法です。バズ(口コミでの話題)を狙う施策でもあるため、「バズマーケティング」と呼ばれることもあります。
強い影響力を持つインフルエンサーに商品やサービスを提供し、その特徴や感想などをSNSやブログで紹介してもらいます。消費者視点や共感性の高い投稿は、より人の目に触れて拡散し、マーケティングにおいて大きな効果が期待できます。
ただし、インフルエンサーマーケティングは人工的に口コミを発生させる方法のため、効果が出やすい一方で、ステマなどの炎上リスクもあります。リスク管理や発信の方法には注意が必要です。
コミュニティマーケティング
コミュニティマーケティングとは、ユーザーのファンコミュニティを活用したマーケティング方法です。自社の商品やサービスを購入・利用したユーザー同士のファンコミュニティを通して、認知度のアップやさらなる売上となる施策を実施していきます。
コミュニティマーケティングを進めるには、ユーザーのインサイトリサーチ(潜在的欲求の調査)が重要です。自社の商品・サービスのファンになってもらい、その先にロイヤリティやエンゲージメントを高め、友人紹介を増やしていくことも検討できます。
また、新規顧客の獲得に向けて、コミュニティメディアを運用するケースも見られます。人の影響力を活用する点ではインフルエンサーマーケティングと似ていますが、コミュニティマーケティングでは商品・サービスの良き理解者が発信者となるため、信頼度の高い情報であるところが相違点です。
ローカルマーケティング
ローカルマーケティングとは、特定地域での小規模なビジネスにおけるマーケティング方法です。そのエリアだけに存在するフランチャイズなども対象となり、地元の消費者や顧客が多い場合に行なわれます。
ローカルマーケティングでは紙のチラシやクーポンの配布だけでなく、デジタルツールの活用も効果的です。地域名を示すキーワードと業種名で検索されたときに上位表示を狙うローカルSEOの施策に取り組んだり、特売セールなどのデジタルクーポンをEメールやアプリのプッシュ通知で送ることもできます。
また、SNSで顧客とコミュニケーションをとることで、エンゲージメントの向上につながります。良好な顧客体験を事例としてコンテンツ化し、より認知拡大が実現できれば、地域外からの来客も期待できます。
ダイレクトマーケティング(one to oneマーケティング)
ダイレクトマーケティングとは、特定の個人あるいは法人をターゲットに直接コミュニケーションを取るマーケティング方法です。「one to oneマーケティング」と呼ばれることもあり、大衆を対象とするマスマーケティングの対義語・反対語となります。
ダイレクトマーケティングでは、相手に合わせたマーケティングを行います。相手のニーズを読み取り、適切なアプローチを行うことが非常に重要です。
ダイレクトマーケティングの一例として、ECサイトにおけるレコメンデーション機能が挙げられます。これは顧客の閲覧履歴や購入履歴を分析し、おすすめの商品を自動表示させる機能です。顧客のニーズを読み取って商品を提案する機能は、ダイレクトマーケティングの考え方を理解する上でとてもわかりやすいでしょう。
メールマーケティング
メールマガジンの配信を通し、ユーザーをナーチャリングする施策です。カスタマージャーニーに沿ってユーザーの状況に合わせた内容のメールマガジンを配信し、徐々にユーザーを商品・サービスのファン化、あるいは顧客にさせる手法です。
まだ商品・サービスを認知していない状態、すでに興味・関心のある状態、他の商品・サービスと比較・検討する状態、購買や資料請求といった行動に移す状態で配信する内容が異なります。後半になるほど顧客になる確率が高まります。
メールマーケティングとは?効果とやり方、おすすめツールも紹介
デジタルマーケティング施策で結果を出す3つの秘訣
最後に、デジタルマーケティングの施策で結果を出す秘訣について解説いたします。
顧客のことを第一に考える「ユーザーファースト」
ユーザーを第一に考えてマーケティングを行うことが大切です。なぜなら、インターネットが普及した現代では、商品・サービスについてネットで調べてから購入に至るユーザーがほとんどだからです。ユーザー視点に立った広告だったり、商品開発を行う必要があるのです。
そのためには、ユーザーがどういう心理で商品・サービスを購入するのか、彼らの行動・ニーズを深く理解することが重要です。ユーザーファーストができると、中長期での利益確保が期待できます。
データ分析の結果をもとに動く「データドリブン」
最近、よく目にするようになったデータドリブン(Data Driven)という言葉。どういう意味なのでしょうか。蓄積されたあらゆるデータを分析し、その結果から施策を考えてビジネスを行うことがデータドリブンです。
インターネットが普及し、ビジネスが加速化したことで意思決定のスピードが求められる昨今、今後はデータドリブンでビジネスをさらに成長させていくことが大切になるでしょう。
施策・テストを高速で繰り返す「OODAループ」
パソコンやスマホで検索すれば、知りたいことがすぐにわかる。こうした環境では、あらゆることに「スピード」が求められます。デジタルマーケティングでも同じです。そこで活用したいフレームワークがOODAループです。
環境がどんどん変化していく中、一度の施策で成功を収めることは至難の業です。たとえ成功したとしても、それが継続するかどうかはわかりません。繰り返し、施策とテストを行うためにもOODAループを活用することをおすすめします。
PDCAサイクルは古い?OODAループとの違いを解説
会議などで何度も聞いたことがあるPDCAについて、いまさら聞けないと思っていませんか?PDCAサイクルのメリットについて、PDCAに代わって注目を集めつつあるOODAループについてもわかりやすく解説します。
マスにこだわらず、自社に合ったマーケティング施策を
マスマーケティングは20世紀が全盛で、成功した企業も複数存在していました。しかし、現代のように消費者や顧客の嗜好が細分化された市場において、必ずしも適切な方法とはいえません。
マーケティングのポイントは、自社の商品やサービスに合った方法を採用することです。マスにこだわらず、特にデジタルデータに基づいたマーケティング方法なら、効率的かつ最適な施策を低コストで実践できます。
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