カスタマージャーニーは、顧客をより深く理解して自社との関係性を築くために非常に有効です。マーケティング全体の方向性を定める指針としても重要となる他、集客の効率化、CVRの向上、LTVの増大などを目指す際の、それぞれの具体的な施策を決める際の視点の基礎にもなります。
しかし、カスタマージャーニーを理解しきれず曖昧に設定してしまっている事例は少なくありません。また、BtoCとBtoBではカスタマージャーニーの設定方法にも大きな違いがあります。
この記事では、カスタマージャーニーの概要から、BtoBに特有の注意点、そして実際の設計の仕方まで、ポイントをご説明いたします。
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目次
BtoB企業におけるカスタマージャーニーの設計
BtoB企業もBtoCのビジネスと同様に、カスタマージャーニーは重要かつ有用です。しかし、BtoCのカスタマージャーニーと違いがあります。設定の方法などにBtoB独特の点があるためです。
カスタマージャーニーというと、ターゲットとなるユーザーを想定したペルソナを設定して、そのペルソナがどのように行動するかを想定してアプローチ方法を検討する手法、というイメージでしょう。しかし、BtoBのビジネスでは、ユーザーとなるのは個人ではありません。複数の個人を含む組織が一体となって意思決定を行い、行動します。そのため、カスタマージャーニーの設計の仕方もBtoCとは異なります。
まずはカスタマージャーの基本について見てみましょう。
カスタマージャーニーについて
カスタマージャーニーとは、Customer Journeyをカタカナ表記したものです。直訳してしまえば「顧客の旅」となります。そこから、潜在顧客であるターゲットがどのような道をたどって顧客となるのかを設定したもののことを言います。
まずは、まだ自社の商品やサービスを知らない段階や、名前だけを知っている段階の潜在顧客を想定してターゲットとします。そして、そのターゲットの性格や趣味趣向を考えながら、自社の商品やサービスとの関わり方を設定していきます。
どのようなきっかけで、自社の商品やサービスにつながる課題に気づくのか。
-
- 課題と解決方法を、どのような手段で調べるのか。
- 課題解決方法が複数見つかったら、どのような基準で実行する方法を選ぶのか。
- 実際に商品やサービスを使うのは、どのような環境か。
- 課題を解決できた際の満足度はどれくらいか。
1つの課題を解決した後で、さらに浮かび上がってくる課題はあるか。
このように、ターゲットの各段階での行動を想定して、旅路のように時系列で把握するものをカスタマージャーニーと言います。
潜在顧客が自社の商品やサービスを知る以前から始めて、実際に購入し顧客となる過程、そして商品やサービスを体感した後の関係性まで、具体的に考えることが重要です。顧客の行動を詳しく分析することで、各段階での顧客との適切な関わり方をより深く考えることができます。
カスタマージャーニーの考え方と分析によって、より顧客に合ったマーケティング戦略の構築ができ、より効果的な営業方法や販売手段などの施策を行えるようになるでしょう。
カスタマージャーニーが必要な課題
カスタマージャーニーはBtoBにおいてもBtoCと同じように大切です。カスタマージャーニーによって解決のヒントを得られる課題や、生み出す効果には、下記のようなものがあります。
- メンバー間での認識の共有ができる
BtoBのビジネスでは、契約や取引の成立に至るまでにBtoCよりも多くのメンバーが関わります。さらに、多くの場合は部門内だけにとどまりません。マーケティング、デザイン、システム開発、営業など、多くの部署の担当者がチームとなって取り組む必要があります。そのようなプロジェクトではメンバー同士の意思疎通が大切になります。チーム内で認識や情報を共有できていなければ、適切な動きができなくなることがあります。
そこで、関わるメンバーがカスタマジャーニーを理解しておくことが必要になります。顧客がどのような段階にある際には、どのような施策を取るべきなのか、共通の認識を持つことができるためです。
- 顧客視点でのマーケティングができる
商品やサービスを作って販売する際には、どうしてもその技術力の高さや質の良さをアピールしたくなります。自社で開発したサービスや、独自に仕入れてきた商品ならば、より力を入れたくなるでしょう。また、専門性の高くなるBtoBのビジネスでは、さらにその傾向が強まります。
しかし、それは「売り手の視点」でもあります。マーケティングや顧客との関係性の構築においては「買い手の視点」が欠かせません。カスタマージャーニーがあれば、顧客が何を注視しているかを深く考察して作成しているため、「今の段階の顧客は何を見ているのか」という視点に立ち戻ることができます。
- 顧客とのタッチポイントを適切に設定できる
マーケティング施策は様々ありますが、どうしても得意なもの、実施しやすい物を優先してしまいがちです。例えば、購入直前の顧客だけを対象にした広告は費用対効果が高まります。しかし、その段階だけを対象にした施策をばかり行なっていては、顧客との密接な関係性は築けません。
カスタマージャーニーの考え方を持っていれば、潜在顧客から購入者まで、各段階でのターゲットの行動を把握し、対応できるようになります。BtoBでは特に長期間にわたる安定した関係性が大切ですので、各段階のタッチポイントで適切なアプローチをかけ続けることが重要です。
- マーケティングの方向性を示すツールになる
顧客へのアプローチやマーケティング施策は常にブラッシュアップしていく必要があります。新しい手法を取り入れることも少なくありません。しかし、マーケティング手法ありきで、場当たり的にいろいろな方法を取り入れても、顧客に取っては統一感のない余計なものになってしまうかもしれません。
そこで、カスタマージャーニーがマーケティングの基本的な方向性を保つためのツールにもなります。新しい施策を検討する際には、カスタマージャーニー全体の中に置いてみて、顧客へのアプローチの仕方が段階ごとにブレていないか、統一感や説得力がなくなっていないか、検証することができます。
顧客の感情・反応を時系列にした「カスタマージャーニーマップ」
カスタマージャーニーについて語られる際には、カスタマージャーニーマップも同時に語られることがほとんどです。この2つの区別をつけずに考えていると混乱することもありますので、違いを認識しておきましょう。
カスタマージャーニーとは、顧客が商品やサービスに関わる際の行動や反応を、ターゲットが置かれた状況ごとにまとめて、深く分析して想定する手法です。より深く顧客を理解するために行うマーケティング手法を指しています。
そしてカスタマージャーニーマップとは、そのカスタマージャーニーを可視化して1枚の表にまとめたものです。
カスタマージャーニーマップでは、横軸にターゲットの置かれている状況を時系列で並べます。「情報収集」「認知」「比較検討」「購入」「利用」といった各段階です。そして、それぞれの段階でターゲットがどのような行動をとるのか、どのような感情を抱くのか、次の段階に進めるための施策は何か、といったことを埋めていきます。
ターゲットがどのようにコンバージョンに至るのか、その過程のタッチポイントごとにどのようなアプローチをすれば効果的なのか、一連の流れを把握することができます。また同時に、今のターゲットにはどのように接すればいいのかも判断できます。
マーケティング手法としての「カスタマージャーニー」に対して、「カスタマージャーニーマップ」は具体的なツールに落とし込んだものと言うこともできます。
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BtoBとBtoCが購入・成約するプロセスの違い
BtoBとBtoC、どちらのビジネスでもカスタマージャーニーの考え方は有効です。しかし、BtoBとBtoCではカスタマージャーニーの作り方に大きな違いがあります。もともとBtoCで発展してきたカスタマージャーニーのノウハウなので、そのままBtoCに適用しただけでは効果的な設定ができない部分があります。
カスタマージャーニーの作り方がBtoBとBtoCで異なる原因は、主にその購買プロセスの違いに由来しています。
BtoCでは商品やサービスの購入をする主体は個人の消費者です。購入のための意思決定をするのも、その個人本人である場合がほとんどです。そのため、個人に対してアプローチをするのが基本となります。また、感情に訴えて瞬発的に購入を決心してもらう手法も取られやすくなっています。
しかしBtoBの場合、購入および意思決定は組織です。複数の人たちがプロセスに関わるため、検討期間も長くなり、アプローチする相手も多くならざるを得ません。多くの人が納得する必要があるので、合理的なロジックが重視されます。
カスタマージャーニーは、ユーザーが商品やサービスを知って購入するプロセスを分析するものです。BtoBとBtoCでは、場面によってユーザーの商品やサービスへの反応が異なるので、カスタマージャーニーにも大きな違いが出てくるのです。
BtoCと異なるBtoB企業のペルソナ設定
BtoCでは、商品やサービスを購入する主体は個人です。情報収集、比較検討、意思決定を1人で行いますので、ペルソナもその1人を設定します。そしてペルソナが、どのように認知し検討、購入、そして使用するのかを追いかけて考察し、カスタマージャーニーを作ることとなります。
しかし、BtoBの購入主体は組織となることがほとんどです。その組織内には複数の人たちが属しています。そして例えば以下のように、それぞれ異なった役割を分担しています。
- 組織内で情報を収集する人。
- 商品やサービスの営業を受ける窓口となる人。
- 導入を検討する会議に出席する人。
- 決裁権を持った人。
- 導入後に実際に使用する人。
そのため、カスタマージャーニーの各段階で、以下のようにキーパーソンを設定してアプローチ方法を考える必要があります。
- 商品やサービスの情報を届けて認知してもらう方法
- 営業が話を聞いてもらう方法
- 最終的に導入を決断してもらう方法
このように、キーパーソンが増えることから、BtoCに比べるとBtoBのカスタマージャーニーの方が複雑になることもあります。
企業や事業内容を意識した設定
BtoCのカスタマージャーニーを考える際には、設定したペルソナの性格や趣味趣向も考慮に入れます。それと同じような要素として、BtoBの場合には企業文化や事業内容を意識する必要があります。
企業文化とは、その会社内のルールや雰囲気です。素早さを重視するあったり企業や慎重に検討する企業もあります。決済についても担当者が決断すれば進む企業がある場合や稟議に時間をかける企業もあります。カスタマージャーニーは購入までのプロセスによって大きく代わりますので、これらの企業文化を意識しなければなりません。
また、会社の規模や形態も大きな要素となり、資金力や企業の経営判断によって異なります。そのため、企業の情報は幅広く集めた方が、より具体的にペルソナを把握できるようになるでしょう。
そして事業内容によっても、その企業内ではどの部門を改善すれば効果が大きいか、違いがあります。企業内の優先度を知ることも、ペルソナを的確に理解する手がかりになります。
購買キーパーソンを考える
BtoBのペルソナを設定する際には、企業にいる複数の人たちを想定する必要があります。担当者やその上司、最終的な決済者が主な関係者でしょう。さらに経営者やその他説得すべき人はいるかなど状況に応じて想定する場合もあります。そのため、想定できる限りの関係者を網羅して、一覧を作ってみるのがおすすめです。
自社の商品やサービスを導入してもらうまでの間には、以下のような役割の人たちがいるでしょう。
- 比較検討に大きな影響を与える人
- 社内稟議を作成して回す人
- 最終的な決裁権を持っている人
これらキーパーソンそれぞれの課題を想定して解決法を提示します。
注意すべき点は、「キーパーソンは1人ではない」ということです。カスタマージャーニーの段階によってキーパーソンは異なります。
- 現場で課題を感じる人
- 現場の課題を解決するための情報を収集する人
- 現場の助けとなるサービスの導入を検討する人
- そのサービスで本当に課題が解決できるか検証する人
- 導入を決済する人
それぞれの段階でのキーパーソンをペルソナに設定して、カスタマージャーニーを作成します。
関係の良い顧客にインタビュー
ペルソナを設定するためには相手の組織について、できる限り多くの情報を集めることが大切です。しかし、BtoBのビジネスでは、相手の組織を構成している人たち全員と会うことは不可能です。窓口となる担当者をはじめ、直接アプローチできる人は限られているでしょう。
インタビューすることで、2つの効果が得られます。
1つは、企業内のより多くの関係者について知ることができること、つまりペルソナを深く理解できることです。ペルソナ設定やカスタマージャーニー作成を、さらに綿密に行えるようになります。
もう1つは、ある企業の事例から他の企業へ応用してペルソナを設定できることです。新しく見込み客となった企業へ対してどのようにアプローチするか、他の企業の事例から判断がつきやすくなり、確度が向上します。
また、関係の良い顧客にはできるだけ細かくたくさんインタビューする方法があります。それによって、顧客の持つ課題や情報収集方法、判断基準、そして導入した際の顧客のメリットなどが詳しく分かることがあります。良い関係を気付けている顧客であれば担当者意外に、商品やサービスを実際に使ってくれている現場の人や、導入を決定した担当者の上司などにも話を聞きましょう。
カスタマージャーニーマップを設計するメリット
カスタマージャーニーマップを設計するにあたって、大きなメリットが2つあります。
1つは、カスタマージャーニーマップがあれば各顧客にどのようなアプローチをすれば良いのか迷うことがなくなることです。2つ目は、ノウハウを蓄積しブラッシュアップできることです。
カスタマージャーニーマップを作るためには、顧客を深く理解するために多くの情報を集めて、どのようにアプローチすれば良いかを考察し、試行錯誤した上で成功した施策を積み重ねていく必要があります。この過程で、ノウハウを洗い直して、効果的なものへ改善していくことができるのです。さらに具体的なメリットについて、続いてご説明します。
課題のある顧客の体験に合った改善
カスタマージャーニーマップでは、顧客の課題と行動を時系列でまとめていきます。
- 課題の認知
- 解決方法の情報収集
- 解決方法の比較検討
- 導入の意思決定
- 実際の使用と結果
といった段階ごとに整理して、顧客の心理や行動を理解、追体験します。
自社の商品やサービスを購入してもらうとしても、顧客が購入を決断する段階のことしか見えていないことがほとんどでしょう。「顧客がなぜ課題に気づいたのか」「どのように情報を収集して自社の商品やサービスに気づいてくれたのか」という段階から考察することは多くありません。
また、顧客の課題も各段階で異なります。カスタマージャーニーマップを作れば、その過程で顧客の各段階での課題を知り、解消する追体験をすることができます。
例えば、小売企業のECサイト担当者が、モールや自社サイトを複数運営している場合の課題を、5つの段階に照らして考えてみましょう。
- 各ECサイトで別々に注文管理するのは非効率だと気付く。
- 別々の注文管理作業を1つにまとめるツールがあることを知る。
- ECサイト統合管理ツールを比較検討する。
- 社内でツール導入の必要性と効果を説明し、決済者に導入を決定してもらう。
- 実際にツールを活用して効率を改善する。
一般に営業担当は、競合他社との比較検討段階の顧客と接することが多いでしょう。しかし、その他の段階の課題を掘り起こすことで、もっと幅広い潜在顧客を見つけられます。
共有認識で顧客の生産性向上
カスタマージャーニーマップは、顧客がどの段階にいる場合には自社はどのような施策を取るか、一覧で示したものでもあります。それをチーム全員が共有して使うことで、共通認識を作れます。
「サービスについて知ってもらうべき段階だから情報を提供しよう」「比較検討の段階だから他社製品との差異や自社の優位性をアピールしよう」「意思決定の段階だから背中を押すためのオファーを提示しよう」など、その顧客にすべきことが明確になるわけです。
また、顧客の心理や課題の理解や取るべき行動の選定を自社内の関係者で共有できるのも大きなメリットです。自分が取るべき動きを判断し、同僚が取っている動きを理解するためにも、カスタマージャーニーマップは非常に役立ちます。
顧客視点で自社のサービスの評価がわかる
自社の商品やサービスを売り込もうとする時には、顧客の視点を忘れてしまいがちです。自社の商品やサービスが、どのような優れた技術で作られているのか、競合に比べてどのように優れているのか、自分たちの目線から語ってしまうことも多いでしょう。しかし、顧客目線で課題やニーズに基づいて語れなければ、顧客には届きません。
カスタマージャーニーマップは、顧客の目線を軸に作られています。「顧客が困っていることは何か」「それを解消するためには何をするか」「その時の感情は」「その段階の課題を解決するために必要なものは」などを検討します。それによって、顧客の視点や考えをより的確に理解することができるようになります。
また、顧客が各段階の課題を解決して次の段階に行くために必要なことも理解できます。「競合との比較段階にいる顧客はどのような情報を欲しがっているのか」「何を点を重視して比較しているのか」考えることを通して、「もっとこういう機能が欲しい」「この点がわかりにくい」という意見が見えてきます。それによって自社の商品やサービスへの評価がわかり、改善点も見えてくるのです。
WEBマーケティングがより効果的に
カスタマージャーニーマップは、顧客の状況と自社の施策をまとめたマーケティングの設計図です。自社のマーケティングに関わる誰が見ても明確に顧客と自社の関係性を理解することができます。
また、顧客がどのような状況にいる時にはどのようにアプローチすれば良いか、他の段階にいる顧客の担当者がどのような行動を取っているか、カスタマージャーニーマップを見れば全員が認識できます。つまり、連携して統一感を持った営業活動が可能になります。
そして、全員がカスタマージャーニーマップを基に行動すれば、施策の成否も計測しやすくなります。各自が良いと思う方法で顧客にアプローチしていると、何が成功してコンバージョンにつながったのかわかりません。ノウハウがチームや会社に還元されず、成績が個人の力量に左右されることにもなります。
チーム全員が共通認識を持ってカスタマージャーニーマップに基づいた行動を取り、その結果を再度カスタマージャーニーマップに還元することで、より効果的なWEBマーケティングのノウハウを蓄積を素早く行うことが可能となります。
カスタマージャーニーマップ作成のポイント
ここまで、カスタマージャーニーマップの役割や効果について見てきました。では、実際に作成する際には具体的にどのような手順が必要なのでしょうか。ここでは8つのステップに分けてご説明します。
また、カスタマージャーニーマップを作成する手順やポイントは、BtoCとBtoBでは微妙に異なることにも注意が必要です。ここではBtoBのカスタマージャーニーマップにおいて注意すべき点も併せてご説明いたします。
1. テーマ設定
まずは、作成するカスタマージャーニーマップのテーマの3つの要素を設定します。
- 顧客に購入してもらいたい商品やサービス
- 顧客のスタートとゴールの状態
- スタートからゴールまでの期間
商品やサービスはすでに決まっているでしょう。この商品やサービスを顧客に購入してもらい、使ってもらうまでの過程がテーマです。
次に、顧客のスタートとゴールの状態を設定します。スタートは、顧客がすでに商品やサービスを知っている段階に置くか、まだ知らない段階に置くかによって大きく異なります。商品やサービスの認知度が高い場合には、知っている状態から始めても良いでしょう。もし商品やサービスがまだあまり知られていないのであれば、その認知を得る前の段階から始めるべきです。その場合、顧客が解消すべき課題を感じたところをスタートとします。
ゴールも同様に、商品やサービスを購入した段階、その商品やサービスを実際に使用して課題を解決した段階、継続的に使ってもらえる段階、どこに置くか検討が必要です。商品やサービスの特性に合わせて設定しましょう。
さらに、スタートからゴールまでの期間も設定しておきます。その期間の長さは、各段階でどのようなアプローチを行い、次のステップへ誘導するかに関わります。
2. キーパーソンとなるペルソナの設定から
テーマが決まったら、ペルソナを設定します。ペルソナとは、自社の商品やサービスにとっての典型的な顧客像を現したモデルのことを言います。既存の顧客から具体的に引用しても良いですし、顧客になって欲しいイメージを膨らませても構いません。ただ、実際の顧客層とは異なった人をペルソナに設定してしまうと、マーケティング施策全体が的外れなものにもなりかねませんので、慎重に検討してください。
また、BtoCでは顧客像をペルソナに設定すれば良いのですが、BtoBでは少し要素が増え、相手の企業とキーパーソンのペルソナが必要となります。
相手の企業像を知るには、多くの要素を調べる必要があります。
- 業種
- 事業内容
- 所在地
- 売上規模
- 従業員数
- 企業文化
- ミッション
- 事業における課題
企業の性格や雰囲気が、カスタマージャーニー全体に影響を与えます。
そしてキーパーソン像も設定します。BtoBビジネスでは意思決定には複数の人が関わります。その中で全体を牽引したり、意思決定に大きな影響力を持つ人がキーパーソンです。その人をペルソナとして人物像をはっきりさせておきます。
キーパーソンは個人の属性と企業内での属性の2つを持ちます。
個人の属性には以下のような要素があります。
- 年齢
- 性別
- 居住地
- 家族構成
- 趣味
- 情報収集方法
企業内での属性には以下のような要素が関わってきます。
- 所属部署
- 役職
- 権限
- 業務内容
- 業務上の課題
また、キーパーソンは1人ではないかもしれません。商品やサービスの特性と、相手企業のペルソナによって決まってくるので、柔軟に設定します。
3.顧客行動をブラッシュアップ
テーマとペルソナが設定できたら、顧客の行動を洗い出していきます。テーマで設定したスタートからゴールまでの間に、ペルソナがどのような行動を取るのかを考察・調査して積み上げていきましょう。
基本的には、顧客が業務の中で解決すべき課題を認識するところがスタートです。ECサイトの注文管理をもっと効率的にできるのではないか、という課題を感じたとしましょう。次に顧客が取る行動を考えます。業務効率化ツールについて検索するのか、関係する展示会に出かけるのか。ペルソナ像から行動を推測します。
その後も、顧客がどのように行動するかを並べていきます。情報を集めて比較検討する際には、デモ版を使ってみるのか、営業担当に話を聞くのか。
さらにBtoBの場合、社内での意思決定がなされ、決裁権を持った人の承認が下りて、契約となります。その過程での具体的な行動もペルソナ像から設定していきます。
ここでカスタマージャーニーは終わりとはなりません。設定したゴールは、自社の商品やサービスを使って課題を解決してもらうことであったり、さらに継続した関係を構築することだからです。
そのために、顧客が導入時に手間取るであろうことを想定して、アフターサービスやサポートについて決めておく必要があります。
4.行動をフローで分ける
顧客の行動を洗い出したら、それらの行動を時系列に沿って段階に分けフロー化します。
BtoBのカスタマージャーニーでは、顧客の段階を次の1から8のように分けることが多くなっています。そして、各段階での課題に対する顧客の行動を想定してフロー化していきます。
段階 | 顧客の課題 | 顧客の行動 | |
1 | 認知 | 課題の発見 | 業務量から効率化の必要性を感じる |
2 | 情報収集 | 課題の解消方法を調べる | 業務効率化ツールについて検索する |
3 | 比較検討 | 最適な解消方法を見つける | 複数のツールの長所短所を洗い出す |
4 | 社内の意思決定 | 複数のツールを比べる | 各ツールを評価して選択する |
5 | 稟議と承認 | 社内稟議用資料を作成する | 採用するツールを社内に説明する |
6 | 購入 | 契約内容を確認する | 使用条件の詳細を理解する |
7 | 評価 | 使用して課題を解決する | ツールを導入して業務を改善する |
8 | リピート | 継続利用して業務改善する | さらに業務改善を徹底する |
具体的な行動はキーパーソンのペルソナに従って推測します。どのようなタイミングで課題に気づくのか、どのような方法で情報を収集するのか。ペルソナの人物像に加えて、企業文化の影響も強く出ますので、企業ペルソナも合わせて検討し、行動を推測します。
また、企業ペルソナは、社内での意思決定過程や稟議と承認の過程など、複数人数が関わる行動でより強く影響します。企業の文化や規模などによって異なりますので、設定した企業のペルソナを基に考察していきます。
ここで設定した顧客の行動が、どのようにアプローチするかの施策を考える土台にもなります。キーパーソンがWEB検索で情報収集するならば、SEO対策を重視して検索上位に表示されるようにしておく必要があります。専門誌や展示会などの業界内での情報を大切にする人ならば、それらの場への広告出稿や出展が効果的になるでしょう。顧客の行動を理解することが、その後のマーケティング施作の成果を左右するのです。
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5.フローに沿って顧客の気持ちを考える
顧客の行動をフロー化して接点を見つけたら、次にそれぞれの接点での顧客の感情の変化を考察します。BtoBのビジネスであり、キーパーソンは企業に所属している人とはいえ、同時に個人でもあります。その感情を理解することは重要です。
基本的には、顧客の抱く感情を推測し、ネガティブなものを消してポジティブに変化させられるように施策を考えます。毎月たくさんの取引先に請求書を送る作業に時間がかかりミスも多い、という課題を発見した時の担当者の気持ちは「困った」「面倒だ」というネガティブなもののはずです。そして、課題を解消するための情報収集を始めたときには「良い方法はあるだろうか」という気持ちに変わっているでしょう。
そこで、自社の請求書一括管理・発送ツールを紹介することで、その感情を「解決できそうだ」というポジティブなものに変えてもらうのです。
ネガティブな感情が生まれる場面は、フローの次の段階へ進んでもらう際の障害でもあるといえます。競合となるツールが複数見つかったら「違いがわからない」というネガティブな感情になります。そこで詳しい説明やレクチャーを行なえば、「これが良さそうだ」というポジティブな感情に変えてもらえます。その他にも「社内への説明が上手くできないかも」「稟議のための材料を集めるのが大変だ」などといったことでも、社内での検討や稟議にも使ってもらえる資料を用意するといった施策のヒントにもなります。
より効果的なマーケティング施策を行うために、顧客のニーズを感情のレベルまで深く掘り下げる考察・調査を行いましょう。
6.顧客の立場をもとに自社のサービスの接点を作る
ここまで、顧客の行動や感情を基に、顧客は何を必要としているか、自社はどのようにアプローチすべきかを考えてきました。何をすれば顧客は自社の商品を購入したり、サービスを利用する方向へ段階を進めてくれるのかがはっきりしてきたでしょう。
しかし、特にBtoBでは自社と顧客との接点は限られる傾向が強くなります。企業対企業なので、その中の担当者を通じてしか接点が作れません。顧客の企業には多くの関係者がいるものの、直接接触できるのは関係する部門の担当者だけということも多いでしょう。そこで、キーパーソンに設定した顧客の立場をもとにして、自社からのアプローチ方法を作る必要があります。
担当者がWEB検索するならば、自社のWEBサイトには使いやすい問い合わせ窓口を設置すべきです。
商品やサービスについての資料をダウンロードをしてくれたら、さらに詳しい説明が必要かもしれませんので、ダウンロード時に入力してもらった連絡先にコンタクトすべきです。このように顧客との接点を適切に用意し、増やし、関係性を構築して行く方法も設定しておきます。
7.顧客の解決策を考える
顧客の行動と自社のアプローチ施策が時間軸に沿って整理できてきたかと思います。顧客がどのような過程でどのように行動し、自社はそれに対してどのようなサポートをするかが見えてきました。ここでカスタマージャーニーマップを完成とせずに、さらに顧客の解決策を発見できないか考察を重ねましょう。
まず、カスタマージャーニーマップを横に見直します。横軸には、顧客の段階ごとに分けられた行動や感情、接点が並んでいます。この流れに抜けがないか、飛んでいる段階はないか、確認します。比較検討の次にいきなり導入を決定してはくれないかもしれません。さらに詳しい問い合わせに応じたり、価格や契約内容の交渉が間に発生する余地はないか考えておきます。
次に、カスタマージャーニーマップを縦に見直します。顧客の段階によって、顧客の行動と感情が見えてきます。
それに対して、適切な接点が作られ適切なサポートができているでしょうか。見当違いなアプローチになっていないか、他の段階との整合性がとれていない方法を取っていないか、確認します。
8.マップ作成からアイデアを増やす
ここまでくると、カスタマージャーニーマップはほぼ完成したと言えます。各段階での顧客の課題と、自社のやるべきことがわかる状態になってきたでしょう。
しかし、カスタマージャーニーマップは実は完成することはありません。実際にツールとして使っていく中で、常にブラッシュアップを続けなければならないのです。
カスタマージャーニーマップに従って各種のマーケティング施策を実行していると、それだけで十分だと思えるようになってしまいます。しかし、もっと良い方法があるかもしれません。加えるべき施策やタッチポイントがあるかもしれません。新しいマーケティング手法が取り入れられるかもしれません。常にアイデアを増やし、試行錯誤を続け、PDCAを回していくことが重要です。
カスタマージャーニーマップの作成事例
カスタマージャーニーマップは、商品やサービス、そして顧客のペルソナによって非常に強く個別化される傾向があります。そのため、カスタマージャーニーマップを作成し使用している組織内でしか理解しきれないものになっていることも少なくありません。自社の商品やサービスと顧客の両方を深く理解していない外部の人が見ても理解できないのです。
また、マーケティング手法を公開する企業も非常に限られています。そのため、カスタマージャーニーマップの具体例は、あまり見ることはできません。とはいえ、カスタマージャーニーマップを一般化したテンプレートはあります。カスタマージャーニーマップを実際に作成してみるワークショップも開催されています。機会があればそれらに参加したり、簡単な作成事例を見てみるのもおすすめです。ただ、自社で作成して使用するには、一般的な段階からさらに改良を重ねていかなければなりません。
リコーのBtoBカスタマージャーニーマップ
ここでは、株式会社リコーが行なっているマーケティング支援事業で使われている、カスタマージャーニーマップの事例を見てみましょう。
(WEBサイト「リコーのマーケティング支援」より)
このカスタマージャーニーマップでは、BtoBの特徴を盛り込み、複数のキーパーソンが登場しています。課題を持っている意思決定者に早い段階でアプローチするために、接点を業界紙の記事や広告としている点や、社内提案資料の必要性を意識していることも特徴的です。
また、実際に担当となる部門の人たちに体験してもらい、サポートを行うことで、顧客となる企業全体に接点を作りアプローチしています。
そして、導入後のサポートもこの時点で盛り込み、継続的な取引への流れを設定しているのも、BtoBの特徴です。
このように、顧客企業内の指示系統や担当部門を意識して施策を設定するのも重要です。実際に導入する際には、さらに個人レベルまで深く考察し、チューニングしていく必要があります。
この事例を応用して、自社の専門性と顧客の特性を盛り込んだカスタマージャーニーマップへとブラッシュアップしていきましょう。
まとめ
カスタマージャーニーの考え方は広く知られるようになりました。顧客を理解し、顧客の課題が何であるかをチーム内で共有し、協力して解消することがビジネスにおいて大切であるという考え方が広まってきたためでもあります。そのため、マーケティング施策の土台としてカスタマージャーニーが使われるのです。
そしてまた、カスタマージャーニーはBtoCだけでなくBtoBにおいても重要です。ただ、BtoBならではの特徴が多くあるため、これまで主流であったBtoCの手法や手順をそのまま応用するだけでは不十分です。BtoBに特有のロジカルな意思決定過程に対応し、複数の関係者がいることや、企業文化の影響力も考慮したものにしなければなりません。
その顧客の行動や感情、そして自社との接点やアプローチ方法をまとめて可視化したものが、カスタマージャーニーマップです。カスタマージャーニーマップを作成し、チーム全員で共有して活用し、さらにブラッシュアップ
BtoBのカスタマージャーニーマップのよくあるご質問
- カスタマージャーニーとは?
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カスタマージャーニーとは、Customer Journeyをカタカナ表記したものです。直訳してしまえば「顧客の旅」となります。そこから、潜在顧客であるターゲットがどのような道をたどって顧客となるのかを設定したもののことを言います。
- BtoBとBtoCが購入・成約するプロセスの違いは?
-
カスタマージャーニーの作り方がBtoBとBtoCで異なる原因は、主にその購買プロセスの違いに由来しています。
BtoCでは商品やサービスの購入をする主体は個人の消費者です。しかしBtoBの場合、購入および意思決定は組織です。BtoBとBtoCでは、場面によってユーザーの商品やサービスへの反応が異なるので、カスタマージャーニーにも大きな違いが出てくるのです。 - カスタマージャーニーマップを設計するメリットは?
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カスタマージャーニーマップを設計するにあたって、大きなメリットが2つあります。
1つは、カスタマージャーニーマップがあれば各顧客にどのようなアプローチをすれば良いのか迷うことがなくなることです。2つ目は、ノウハウを蓄積しブラッシュアップできることです。