これまで、国内36,000以上のWebサイトのデータ分析を行ってきた株式会社WACULの代表取締役・垣内勇威さん。近年DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が浸透しつつあるものの、企業におけるデジタルマーケティングの成長が見受けられないと語ります。
企業がデジタルマーケティングで成果を出せない原因と対策、DX人材育成と採用のポイントについて、垣内さんに伺いました。
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目次
そもそもデジタルマーケティングで成果が出ない原因とは?
垣内さんによると、デジタルマーケティングがうまくいかないのは「社内コミュニケーションがうまくいっていない」「経営者や責任者がデジタルマーケティングを理解していない」「顧客を見ていない」など、根本的な原因があるそうです。
社内コミュニケーションが面倒
デジタルマーケティングで成果が出せない大きな原因として垣内さんは「社内のコミュニケーション」を挙げています。
垣内:デジタルマーケティングと向き合うためには、社内コミュニケーションが必須です。1人がデジタルについて勉強して理解したとしても、その内容を部署の人たち一人一人にレクチャーしていかなければならない。さらに突き詰めていくとなると、マーケティング以降のセールス領域や商品開発領域など、他部署とのやりとりも必然的に増えていきます。
それにはかなりの時間と根気が必要で、考えるだけで億劫になってしまう人もいるでしょう。とくに会社勤めの場合は、月の給料にリミットがあるので正直「私はここまでやれない!」と、感じてしまう人も多いと思います。
他部署とのコミュニケーションが面倒で、始めたことが遠回りになってしまうケースもあるそう。
垣内:他部署とのコミュニケーションが面倒だからといって、自部署のみで完結する仕事を選ぶのは結果的に非効率です。
その一例として、自部署だけが関わるドメインを新しく取って、独自にWebサイトを作ることがありますが、それは元々のサイトに訪問している多数の顧客を相手にすることもできず、SEO的にも弱い新サイトで新たに集客することになってしまいます。
またこのサイトを作るのも、数ある部署とコミュニケーションしたくないために発生する事象の1つに過ぎません。例えば、新規ツール導入は、デジタル関連部署単独の意志で勝手に導入できるためやりがちですが、結局使いこなすには他部署連携が必要なので使われません。MAなら営業連携、CDPなら顧客接点部署連携が不可欠です。
ほかにも、成果を出すために他部署と連携しなければならないCVポイント設計、商品開発、顧客リスト共有などから逃げてしまうのも良くないと思います。
デジタル活用の本丸はコストカットであり、他部署が人力でやっていることをデジタルの力で効率化を図る必要があるでしょう。
経営者や責任者がデジタルマーケティングを理解していない
垣内さんが2つ目の原因として挙げているのは、経営者や管理者がデジタルマーケティングを理解していない点です。
垣内:先ほどもお話しましたが、他部署とのコミュニケーションが億劫なことを理由に、自部署だけで新しいドメインを取得して、Webサイトを立ち上げるケースがあります。しかもそこに1,000万円といった莫大な予算が下りることもあるんですよ。
「デジタル=何でもできる」という誤認識によって、デジタルについて十分に理解せず指示してしまう責任者は多いようです。また、デジタルに詳しい人を配置するだけでは根本的な解決には至らないそう。
垣内:デジタルマーケティングで成果を上げるためには、それなりの予算が必要になってくるので、経営者や責任者がデジタルマーケティングについて勉強しておかないと適切な指示が出せないと思います。いくらデジタルに詳しい新人をDX推進の部署に配置しても、全社の解決すべき課題に到達するのは難しいでしょう。
顧客を見ていない
デジタルと関わる時間が増えていくと「自分は顧客を知っている」と過信しがち。しかし多くのマーケターは顧客を見ていないと言います。
垣内:顧客を見ていないのも成果が出ない原因でしょう。マーケティングは顧客と直接コミュニケーションを取れる手段があまり多くありません。それがデジタルとなれば、目の前に顧客がいないため、顧客の解像度をさらに高める必要があります。
「ひとまずデジタルに任せればOK」という誤認は、デジタルマーケティングがうまくいかない要因となるようです。今一度、デジタルでできること・できないことを把握しておくべきでしょう。
デジタルマーケティングで成果を上げるためには何をすべき?
続いて、デジタルマーケティングで成果を上げる方法を垣内さんに教えてもらいました。
経営者本人や本部長を歴任した人物をトップに置く
垣内:デジタルマーケティングで成功するためには、経営者本人や本部長を歴任した人物をトップに置くのが望ましいです。
言い換えると、そのような人物を置ける人事と予算があるかでしょう。かつてデジタルを扱う部署は、どんな業務を行っているかもあまり把握されておらず、予算もない企業が多かったと思います。
しかし近年、DXを推進する社会に変わってた影響もあり、結果的に営業で活躍してきた本部長がデジタルのトップに着任している企業が増えてきました。私も常日頃顧客の話を聞いていて、状況が変わりつつあると実感しています。
とはいえ、ただ単に影響力のある人物を置くだけでは日本企業のデジタルマーケティングは変わらないだろうという。
垣内:海外企業であればCEOがリーダーシップを発揮して組織が大きく動くかもしれませんが、日本で実践するとなると号令だけではうまくいきません。トップの人間が声を上げたうえで、ボトムアップで1つ1つの事業部やグループ企業を少しずつ立てていく必要があるでしょう。
加えて、社内で別のメディアを立ち上げることがあれば、「何のために分けるんですか?」と指摘できるようになればベストですね。我々のような外部の専門知見をもつ人々がそのような指摘をするのも大切だと思います。
顧客を知るために、実際に物を売ってみる
デジタルマーケティングを成功させるためには実際に自身で物を販売し、顧客を知ることが大切だとか。垣内さん自身も、月10件は必ずコンサルやインタビュー、顧客調査などを行っているそうです。
垣内:デジタルマーケティングは、直接顧客に商品説明ができません。そのため自ら積極的に顧客を見にいく必要があります。方法としてはまず、定期的にインタビューやアンケートを行い解像度を高めます。
2つ目はマーケティングは物を販売したり、顧客を説得したりする行為です。いわゆる”自己満足”のものを作っても成果は出ません。「この商品はどう売ればいいのか」「このあとどうやって販売されるのか」なども理解する必要があります。
そのためには、毎日パソコンの画面にかじりついているのではなく、現場に行くことが重要だと言います。
垣内:BtoBならば自分で販売してみましょう。BtoCならば商品開発に関わってみる、もしくは現地まで訪れて売れている様子を見る、販売員を経験してみる、自分が何かを売っているんだと再認識するだけでかなり変わってくるでしょう。
私の予想ですが実際に物を自身で販売したことがないマーケターは、一定数いると思います。自身で販売する経験がないと、マーケターと名乗ってはいけないかもしれませんね(笑)。
担当業務ごとに部署を分けない
デジタルマーケティングで成果を出そう考えると担当業務ごとにチームを分けがちですが、それは逆効果となる場合もあるようです。
垣内:1つの業務だけに縛られて勝負するのはあまりおすすめしません。従業員も日々1つの業務に向き合うのは苦しいと思います。
実際にSEOチーム・広告チーム・メールチーム・SNSチームなど、部署を細かく分けている企業も存在しますが、SEOのみを理解しているだけではビジネスはできません。「SEOと広告のどちらがよいか」という判断ができてようやくビジネスが成立するので、そもそものKPIの立て方が違うんです。
例えば、SEO担当を作ってしまうとSEOしかできなくなるので、その人のキャリアを潰すリスクすらあります。ただ、SEOの専門家になるならば話は変わってきますが。専門家になりたいなら、事業会社よりも複数事業を支援するSEOサービスの提供会社の方が知見が溜まりやすいように思います。
手段を制限されたうえでのビジネスは局所最適化してしまうため、デジタルマーケティングで成果を出すのは難しいという。そのため、一人一人が1つの業務だけではなく、全体を見ることが大切になってくるそうです。
DX人材育成や採用におけるポイント
最後に、DX人材の育成や採用において垣内さんが心がけているポイントを伺いました。
真面目に取り組ませない
デジタルは決して真面目に取り組まずに「サボる・楽をする・ズルをすること」が重要だそう。
垣内:真面目に取り組むことは大切ですが、注力するポイントがずれたまま作業を行うのはもったいないです。デジタルマーケティングは施策が無限なので、取り組めば取り組むほど忙しくなります。一方で、真面目な方に限って競合サイトばかり確認している。その行動は今すぐやめましょう。本当に意味ないです(笑)。
垣内さんによると、膨大なマーケティング施策や提案は9割9分不要だと言います。
垣内:たとえば、LPをきれいに作ろうと頑張る人がいますが、顧客から見たらはっきり言っていらない作業ですよね。LPから論点をずらしてコンバージョンや商品を変更してみると、大きな売り上げにつながることもあります。
真面目な方は「LPで何とかしよう」と思うから勝てないだけであって、「何か別のところを変更したらもっと簡単になるのでは」と考えられるような人材育成が大切だと思います。その時間があるならば顧客理解や売るほうに時間を使うべきです。
雇用形態にこだわらない
採用において、雇用形態にこだわる必要はないようです。
垣内:自社は雇用形態は一切気にしていません。正社員や契約社員、アルバイト、業務委託、もはや競業しているベンダーでも構わないと思っています。私自身、この世の中のマーケティング業界に革命を起こしたい。
当社の人事ソースのみだと1社1社の企業を支援するしかありませんが、世の中のデジタルマーケターやマーケター企業が自社の思想を理解して浸透していけば、その会社が別のその会社を変えてくれると信じています。
もし求職活動中に気になる企業があっても、希望の雇用形態と合わなければ応募を諦める人も多いかもしれません。つまり雇用形態にこだわることは、企業側においても有望な人材を逃す原因ともなり得ると言えます。
人のマインドを変えるのではなく、マインドが合う人を見つける
人材を育成するにあたって、社員のマインドを変えようと考えてしまいがち。そんなときは思い切って諦めたほうが良いケースもあるようです。
垣内:知識を授けることは比較的簡単ですが、人のマインドを変えるのは時間がかかります。とはいえ、熱量のある人がいないとデジタルはうまくいかないでしょう。
でも時折「会社を変えたい!」という情熱的な方が現れるんですよね。そういう人材が加わると化学反応が起きて、次第に成果が出てきます。マインドを変えるというよりかは、マインドが合う人を見つけたほうが最善かと思います。
人材育成となると「この人はどうしたらやる気を出してくれるだろう」と悩んでしまうでしょう。一方で雇用形態にこだわらずにアンテナを張ってみると、マインドが合う人が見つかるのかもしれません。
デジタルの無駄を一掃したい
2005年からデジタルマーケティングのコンサルティング活動を行う垣内さんですが、実態は約15年以上経った現在でも変わっていないそうです。
垣内:今後もデジタルの無駄を一掃したいと思っています。ついデジタルだけで考えるとSEOしか見ないといった極端な方法を取り入れがちです。しかし、マーケティングの根本である顧客はどのように物を購入するのか、購入する前にどんな行動を取るのかをまず把握すると無駄はなくなっていくでしょう。
出典:「なぜマーケターは「成果の出ない施策」を繰り返すのか?デジタルマーケティングの定石|WACUL TECHNOLOGY & MARKETING LAB」
今回のインタビューでの内容は垣内さんの著書『デジタルマーケティングの定石 なぜマーケターは「成果の出ない施策」を繰り返すのか』(日本実業出版社)にも詳しく書かれています。同じようにデジタルの無駄を省きたいと考えている方はぜひ読んでみてください。
サイトの成果改善でお困りではないですか?
「サイトからの問い合わせを増やしたいが、どこを改善すべきか分からない…」そんなお悩みをお抱えの方、ニュートラルワークスにご相談ください。
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