BtoC(一般消費者向け販売)のECサイトは多くのユーザーにとって身近な存在ですが、BtoB(企業間取引)のほうが市場規模が大きく、しかも伸びてきているのが現状です。法人向けのサービスや業務用の商品を販売するBtoBのECサイト市場はどのくらい伸びているのでしょうか。
この記事では、BtoB-ECサイトの市場規模と成功事例や、BtoB-ECサイトを構築する方法についてご紹介します。
目次
個人でネットショッピングを利用していると、ECサイトは、企業から個人へ向けたBtoCの市場であるというイメージが強いかもしれません。しかし経済産業省の調査によれば、toBのEC市場は2020年の時点で331兆円という非常に大きなマーケットに成長したことがわかっています。
そして企業のEC化率は33.5%という値を記録しています。BtoB-ECの市場が成長している理由は、ECシステム各社が新規参入してきていることや、BtoBビジネスに特化したASP(アプリケーションサービスプロバイダ)が急増したことが要因として考えられます。
出典:経済産業省「令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)」
また昨今のコロナ禍では、リアル店舗での対面販売や外回りの営業は難しくなってきています。DX化・EC化によって、複数の販売チャネルを活用することが、ビジネスのうえでとても重要になってきています。このような状況を考慮すると、今後さらにBtoBのEC利用は伸びていくと考えていいでしょう。
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ここからは経済産業省が公開しているデータを参考に、BtoB-EC市場規模とEC化率について業種別に見ていきましょう。
大分類 | 中分類 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
EC市場規模(億円) | EC化率 | EC市場規模(億円) | EC化率 | EC市場規模(億円) | EC化率 | |||
– | 対前年比 | |||||||
建設 | 建設・不動産業 | 166,510 | 11.0% | 182,680 | 12.0% | 195,944 | 7.3% | 13.1% |
製造 | 食品 | 244,040 | 55.6% | 266,010 | 59.3% | 264,672 | -0.5% | 63.3% |
繊維・日用品・化学 | 341,950 | 40.6% | 333,700 | 40.7% | 322,621 | -3.3% | 45.7% | |
鉄・非鉄金属 | 214,900 | 35.8% | 212,780 | 38.1% | 202,892 | -4.6% | 40.5% | |
産業関連機器・精密機器 | 156,640 | 33.1% | 168,410 | 35.1% | 159,623 | -5.2% | 38.3% | |
電気・情報関連機器 | 358,000 | 53.5% | 365,140 | 57.9% | 349,740 | -4.2% | 61.1% | |
輸送用機械 | 500,560 | 63.2% | 523,620 | 67.0% | 480,963 | -8.1% | 70.7% | |
情報通信 | 情報通信 | 133,990 | 18.8% | 145,820 | 19.9% | 151,685 | 4.0% | 21.0% |
運輸 | 運輸 | 97,550 | 15.9% | 104,610 | 16.8% | 96,843 | -7.4% | 18.2% |
卸売 | 卸売 | 1,039,510 | 27.7% | 1,026,450 | 28.8% | 920,944 | -10.3% | 30.6% |
金融 | 金融 | 128,620 | 20.9% | 133,950 | 22.0% | 134,273 | 0.2% | 22.5% |
サービス業 | 広告・物品賃貸 | 38,210 | 12.8% | 42,110 | 14.0% | 38,206 | -9.3% | 14.6% |
その他 | 小売 | 17,860 | N/A | 19,890 | N/A | 25,983 | 30.6% | N/A |
その他サービス | 3,960 | N/A | 4,450 | N/A | 4,717 | 6.0% | N/A | |
合計 | 3,442,300 | N/A | 3,529,620 | N/A | 3,349,106 | -5.1% | N/A | |
合計 (その他を除く) |
3,420,480 | 30.2% | 3,505,280 | 31.7% | 3,318,406 | -5.3% | 33.5% |
出典:経済産業省「令和元年度 内外一体の経済成長戦略構築にかかる 国際経済調査事業 (電子商取引に関する市場調査)」(PDF)
BtoB-EC市場規模の業種別内訳で群を抜いているのは「卸売」です。卸売業は、2017年に94兆円だったEC市場規模が2018年、2019年ともに100兆円を超えました。ただ、2020年は92兆円と100兆円を割り込みました。それでも、この値はBtoB-EC市場規模全体のおよそ1/3を占めています。
続いて業種別内訳で多くを占めるのは「輸送用機械」で、2017年時点でおよそ47兆円、そして2018年からは50兆円を超えていましたが、2020年は48兆円に下がっています。そして2020年のEC市場規模で前年対比が最も高かった業種は「小売」で、30.6%となっています。
業種全体の前年対比が-5.1%でしたが、2017年、2018年に比べると微増であることを踏まえると、コロナ禍が落ち着けばEC市場規模が堅調に伸びることが予想されます。「小売」は市場規模2.5兆円とまだ小規模ではありますが、今後も拡大していく可能性に期待できます。
また、EC化率に関して際立っている業種は、「食品」「電気・情報関連機器」「輸送用機械」の3つです。2020年の業界全体のEC化率は33.5%でありながら、3つの業界は2017年時点ですでに50%を超えていました。特に、「輸送用機械」は2020年のEC化率が70%超となっています。
BtoB-ECの市場規模が拡大している背景としては、業務効率化が求められていることが挙げられます。例えば実店舗での販売には、人件費や家賃がかかってしまいます。市場全体が拡大する一方、競合他社との差をつけるためには、なるべくコストを抑えながら効率的に運用することが必要となってきます。
また、ネットで簡単に取り引きを済ませたいという取引先のニーズを満たすためにECを導入するケースもあります。このように、業務効率化や決済の簡便化、顧客管理ツールとの連携の流れによって、ECを導入する企業が増えてきています。
2020年のBtoBのEC市場規模は約331兆円、EC化率33.5%と目覚ましいですが、実際この数字にはEDI(Electronic Data Interchange:電子データ交換)のデータも含まれています。
EDIとは、企業間の取引で発生する発注・請求・決済などの帳票処理を、電子取引によって自動化するシステムです。そのため、企業間でのクローズドなネットワークであることもあり、実際にインターネット上で見られるようオープンにEC化している企業はこの数字よりも少なくなります。
EDIによる受発注システムには課題や制限が多いことも知っておかなければなりません。EDIは企業間取引における事務作業を効率化するためのもので、顧客データを管理することができません。時代の流れに適したマーケティング施策を打つためにも、EDIからEC化を検討している企業も多くなってきています。
また、2024年をめどに、これまでEDIでは主流だった電話回線「ISDN」が段階的に廃止されていくことも発表されています。これら複数の理由によって、多くの企業がEC化を図るタイミングに立たされているともいえます。
BtoBのECサイトは、大きく2種類に分けられます。
クローズドBtoB | スモールBtoB | |
---|---|---|
ターゲット | 既存顧客のみ | 既存顧客、リード(潜在顧客) |
主な目的 | 業務負担の軽減 | 新規顧客の開拓 |
ログイン | 有り | 無し |
販売商品・価格 | 取引先によって異なる | 同一価格、同一商品 |
上記は特徴を簡単にまとめたものです。ここからはクローズドBtoBとスモールBtoBの特徴についてより詳しく解説します。
クローズドBtoB型のECサイトは、既存の取引先だけが利用できます。ターゲットは既存顧客のみで、新規顧客を取り込むことを目的とはしていません。クローズドのECサイトを設置する目的は、自社の業務負担を軽減することです。
すでに契約済みの取引先と頻繁に取引する場合には、限定型のECサイトを経由することで、発注・受注・請求・決算までの一連の業務を自動化できるようになります。
クローズドBtoB型のECサイトでは会員以外はサイトを閲覧できません。サイトを閲覧するためには、ログインするためのID、パスワードが必要です。そしてサイトで販売されている商品や価格については、会員ごとに異なることがあります。
スモールBtoB型のECサイトは、一般的なBtoCのECサイトと同じで、検索エンジンなどから日本中、あるいは世界中からのアクセスが見込めます。既存顧客はもちろん潜在顧客、新規顧客の開拓を目的にしています。スモールBtoB型のECサイトの場合は、多くのユーザーに認知してもらいたいので、会員登録しなくても閲覧できます。掲載されている商品や価格は統一されています。
クローズドBtoB型のECサイトとスモールBtoB型のECサイトの違いについて解説してきました。ここからは、BtoB-ECサイトを構築する上での注意点について説明していきます。注意点は主に3つあります。
1つ目は、取引先によって業務フローや商慣習が違うことです。例として、キャッシュフローがあります。BtoCの場合、商品を購入するとすぐに支払いが行われます。しかし、BtoBの場合は取引件数や金額が大きいため、定められた期日にまとめて支払うことが多いでしょう。
そして支払い方法も「月末締め翌月末払い」「月末締め翌々月払い」などいくつか存在します。こうした業務フローや商習慣については、あらかじめ取引先と認識を共有しておきましょう。
2つ目は、ECサイトの構築・リニューアルは負担が大きいことです。ECサイトの構築には様々な方法がありますが、数十万から数百万単位で初期費用や月額費用がかかります。例えば、サイト構築の方法で最もコストと時間がかかるのは、フルスクラッチです。フルスクラッチとはフルオーダーメイドでサイトを構築することです。
システムやデザインを希望通りに反映してもらえるメリットはありますが、初期費用は数千万円、月額費用は数十万円以上かかることもあります。そしてシステム開発やデザイン設計には、後にご紹介する他の方法に比べて時間がかかります。
3つ目は、サイト構築のための要件定義で業務フローをしっかり把握する必要があることです。ECサイトではその目的によって、業務フローが異なります。
例えば、ECサイトで注文が発生した際に、社内でどのように処理するのか、どのように商品を配達するのか、などといった業務フローは会社によって異なります。顧客や取引先、ベンダーとの間に相違が生じないように、要件定義の段階でそれぞれの業務フローを明確にしておきましょう。
BtoB-ECサイトの特徴について説明してきました。ここからは、BtoB-ECサイトの成功事例について紹介していきます。それぞれのECサイトには、業界ジャンルや扱う商品の分野ごとに特色があります。詳しく解説していきますので、自社の事業内容と照らし合わせながら参考にしてみてください。
ASKULの特徴
ASKULは中小事務所向けのオフィス用品や現場用品、医療・介護用品など幅広い用品を取り扱うサイトです。ASKULは2020年5月期で売上高4,003億円という驚異の額を叩き出し、Amazonや100円ショップをライバルとしています。
ASKULの成功事例として注目すべきなのは、素早い配送です。「明日来る」という日本語から作られた社名であり、当日配送や翌日配送が可能です。また、登録したユーザーはサイト内に「マイカタログ」を作ることができます。決まった商品を定期的に購入できるため便利です。
モノタロウの特徴
モノタロウは、工場で使う消耗品のような工業用資材の販売サイトです。売上高は、2019年12月時点で1,265億円となっていて、大手EC・ネット通販の中でもトップ3に入ります。また、モノタロウ独自のプライベートブランド商品は、低価格でありながら質への評価も高いものが数多くあります。
モノタロウのECサイトによる注文方法にはクイックオーダーシステムを採用しており、商品カタログに記載された注文コードを入力するだけで、簡単にネット注文ができます。膨大な数のアイテムが掲載されていますが、わかりやすい場所に細かなカテゴリーメニューを設置することで、目当ての資材にたどり着きやすく配慮しているのがモノタロウのECサイトの特徴です。
ミスミの特徴
ミスミは、FA(Factory Automation)など自動機の標準部品を扱うFA事業と、自動車や電子・電気機器などの金型用部品を扱う金型部品事業の2つの事業を展開しており、ものづくりを支えるECサイトとして成長しています。ミスミの特徴は、製造業の現場で使用される細かい部品から衛生管理用品までニッチなジャンルに幅広く対応していることです。
また、他のECサイトにはないミスミ独自の魅力は、商品ページからCADデータをダウンロードできたり、Excelファイルをアップロードして簡単に一括見積もりができたりすることです。
他にも、スペックでの指定・型番で追加工注文ができる「e追加加工サービス」や3D CADデータのアップロードで即時見積もりと加工ができる「meviy(メヴィー)」など、独自サービスがあります。
フーヅフリッジの特徴
フーヅフリッジは飲食店向けの業務用食材を取り扱っているECサイトで、UCCのグループ会社が運営しています。「飲食店の冷蔵庫」というキャッチコピーを掲げ、独自の商品を1年間に平均30アイテム以上開発、追加しています。
フーヅフリッジのECサイトが成功しているのは、業態やカテゴリーごとに商品を選べることです。例えば、カフェ・喫茶店から、洋食、和食、中華、移動販売、病院・介護施設、イベント・学園祭・お祭りまでの業態や、フードやドリンクといったカテゴリーなど、メニューや利用するシチュエーションに合わせて商品が掲載されています。
また、商品は1点からの単品購入も可能なので、個人経営の飲食店でも利用できます。
FUJIEI toB SUPPLYの特徴
FUJIEI toB SUPPLYは、家庭用品や家具・インテリアの総合商社である株式会社藤栄が運営するECサイトです。BtoC向けのECサイト「にくらす」も運営していますが、FUJIEI toB SUPPLYは事業者専用のBtoB向け卸売・仕入れサイトになります。
FUJIEI toB SUPPLYのECサイトは、ブランド別と商品シリーズ別の2パターンから商品を閲覧できます。商品シリーズでは人気のラインアップから商品を選ぶことができ、おしゃれで洗練されたアイテムを必要とする店舗や企業に親しまれています。
サイトの構造や使い方は一般的なネットショップと同様なので、店舗を経営する方は普段のお買い物をするのと同じような感覚でサイトを使用できます。
ReValueの特徴
ReValue(リバリュー)は、在庫買取・在庫処分のECサイトです。返品された商品や余剰在庫などの「行き場をなくした商品」を仕入れ、適正価格にて企業に販売しています。商品ジャンルの一例としては、家電やゲーム、PC、アパレルアイテムや時計、産業材や資材などを取り扱っています。
型落ち品や余剰在庫などを扱っているだけに、商品も安定して一定の供給量を確保しているわけではありません。しかし、価値のある商品を安値で購入できることがあり、掘り出し物感覚で商品を探すことができます。また取引は、オークション形式で行われているのも特徴です。
ニトムズの特徴
ニトムズは粘着テープなど、多様な粘着技術によって商品開発している会社です。ECサイトでは、工場やオフィス、病院や介護施設などで使用する業務用品を取り扱っています。日用品がメインですが、複数の自社ブランドをもっており販売を強化しています。
サイトの特徴は、BtoB向け特有のサイト構築になっていることです。例えば、取引先ごとの販売価格教示や、ユーザー情報に合わせて企業情報を管理できるなど、クローズドBtoBの仕様となっています。また注文するには、BtoB向けの卸売オンラインストアと、個人向けのオンラインショップ(ヘルスケア用品のみ)の使い分けを行っています。
BtoB-ECサイトの成功事例についてご紹介しましたが、サイト構築はコストや時間がかかってしまうものです。これからECサイトを運営しようと考えている方の中には、より簡単に早く始めたいと思っている方も多いでしょう。ここからはサイトを早く簡単に構築する方法について説明します。
BtoB-ECサイトの構築を成功させるポイントは、「小さく」「早く」始めることです。上述したフルスクラッチでサイトを構築しようとすると、コストと時間がかかってしまいます。しかしプラットフォームやサイト構築サービスを利用することで、簡単に構築できます。
例えば、ASPを利用する方法があります。ASPではインターネット上のアプリケーションを使って、プラットホームを利用できるので、低価格で早くスタートできます。
また、クラウドECを利用する方法もあります。ASPはサイトが完成しており、自由度が低いのに比べて、クラウドECではカスタマイズが可能です。そのため事業やサービスのイメージを反映でき、理想に近いサイトを作ることができます。
近年ネットショップを開設する企業が増加しています。自社ECサイトの構築に時間や人件費を割けない場合でも、ECプラットフォームを使えば、簡単にECサイトを始められます。ECプラットフォームの中でも人気のあるサービスが、Shopify(ショッピファイ)です。Shopifyは、世界ナンバーワンのシェアを誇るECプラットフォームで、175ヶ国で利用されています。
自社サーバーの設置も必要なく、登録したその日からすぐにでもECショップをオープンさせることができます。Shopifyは月額コストが安く、在庫管理や大手運送会社と提携している点も魅力です。SEOも万全なので、ECショップですぐ集客したい場合は、とても効率的といえるでしょう。
Shopify(ショッピファイ)とは?機能やコスト、メリットを解説
世界中のECサイトで爆発的に導入が増えているShopify(ショッピファイ)をご存知でしょうか?「アマゾン・楽天キラー」と呼ばれるのはなぜか、Shopify導入のメリットや機能、使い方を解説します。
ここまでBtoB ECサイトの市場規模や成功事例などを紹介してきました。改めて、導入することのメリット・デメリットをまとめてみました。
クローズドとスモールの2種類ありますが、基本的には取引先との受発注を効率的に行うことがBtoB ECサイト導入の目的です。メリットは以下の3点です。
・電話やメールなど人的に行っていた作業の負担を低減できる
・サイト上でキャンペーンなどマーケティング施策を打つことができる
・遠方や海外なども新規顧客になり得る(スモールBtoB型のケース)
作業をECに落とし込む際、必然的にフローを見直すことになります。そこで無駄なフローが浮き彫りになり、最適化が図れるといった副次的なメリットも期待できます。
BtoBのカスタマージャーニーマップのポイント、顧客課題やペルソナ
一方で、BtoB ECサイト導入のデメリットもあります。以下の3点です。
・少なからず導入コストが発生する
・社内での調整が必要
・既存取引からECへ移行するのに障壁がある
こちらとしては効率化になるので進めたいと思っても、これまでのやり方が変更となることに既存の取引先が渋る場合も考えられます。既存のやり方を変更するのには社内外で労力がいることは事実です。調整に時間がかかることも想定しておきましょう。
BtoB-ECサイトの市場規模と成功事例についてご紹介しました。BtoB-ECサイトは年々市場が拡大しており、ECサイトを利用する企業も増えてきています。これからBtoB-ECサイトを始めるなら、初めから完璧なものを作ろうとするのではなく、小さく早く始めることがポイントです。
BtoBのECサイトは、マーケティング手法もBtoCとは大きく異なることから知識と経験が必要です。もしお困りごとや、一度プロに相談してみたいという場合は、BtoBマーケティングのプロであるニュートラルワークスにご相談ください。無料相談も受け付けています。